おはなし

PSO等の物語です。

或るブーマの一生

 ブーマは、ラグオル地表の森でもっともよく見かける原生生物だ。身長160cm程度、赤茶色の体毛に包まれた頑強な体を持ち、爪、牙は鋭い。地中にもぐり、獲物を待ち伏せする性質を持つ。元来、臆病な生物なのだが、ラグオルの異常フォトンの影響で獰猛になってしまっている。

 彼は、ブーマとして、生をうけた。兄弟もいたような気もするが、もう覚えていない。親の顔など、とうの昔に忘れた。
 彼は、老いていた。この森でいつも一人だった。だが、寂しいという感情はもう忘れてしまった。彼を除くブーマは、獰猛になって、人を襲うようになった。彼はなぜか異常フォトンの影響を受けず、臆病なままだった。
 彼は、他のブーマと比べものにならないほど、頑強だった。そして、この森で唯一漆黒の体毛を持つブーマであった。黒光りする禍々しい容貌のため、彼に近づく生物はいなかった。だれもこない森のはずれが彼のすみかだった。
 彼のかたわらには、美しい銃があった。ホーリーレイと呼ばれる稀少な銃だ。この美しい銃は彼の宝物であった。いつごろから、この銃がここにあるのか、彼自身覚えていない。生まれた時から持っていたのかもしれないし、拾ったのかもしれない。だが、彼には興味のないことだった。
 彼は、ハンター達と、この森の原生生物との殺し合いを森のはずれから、怒るでもなく、悲しむでもなく、見つめていた。彼にはどちらも相手を殺すことしか考えない、そんな生物のように感じられた。
 彼は、最近この森にくるようになった、あるハンターをわずかに興味を持って見ることがあった。白い衣装のフォニュエールの少女だ。
 彼女は、まだかけだしのハンターズらしく、ラッピーにさえてこずっていた。敵を攻撃する彼女の表情は、悲しげで、彼には、とても辛そうに見えた。それが、彼にはとても不思議だった。
 実は、彼は、このフォニュエールと一度間近であったことがある。

 ある日、彼は水を飲むため森のはずれから出てきた。その時に彼は、レイキャストに襲われた。幸い、そのレイキャストの力では彼を死に至らしめるどころか、軽い傷を負わせる程度に過ぎなかった。そのレイキャストは、渾身の力が彼に全く通用しないことに恐怖し、逃げ帰った。彼は、特に気にせず、また水を飲み始めた。誰かの気配がしてふりむくと、フォニュエールの少女が震えながら立っていた。彼は、彼女が怯えており、敵意がなさそうなので、ねぐらに帰ろうとのっそりと立ち上った。その時、足に痛みが走り、少しよろけた。さっきのレイキャストに、足に傷を負わされていたのだ。彼女がなにかを言いながら、近づいてきた。彼は、警戒し身構えた。だが、彼女は、覚えたての回復テクニック、レスタを彼の傷にかけたのだ。彼は、奇妙な気持ちになったが、足の痛みが消えたので、のっそりと森のはずれに消えた。実は、彼女がはじめて遭遇した原生生物が彼であった。

 そういうこともあって、彼は、その白いフォニュエールの様子を興味深げに見ることが多かった。彼は、彼女になら、宝物の美しい銃が似合うのではないかと思った。

 ある日差しの強い日、彼は、何故か自分が今日死ぬかもしれないと思った。のどがカラカラに渇き、目も少しかすんでいた。今日、あの白いフォニュエールが来たら宝物の美しい銃を渡そうと思った。
 彼は、森のはずれから、美しい銃を持って、水を飲みに外に出た。森の入り口で彼女を待とうと思った。
 水を飲む彼を陰から見るがあった。彼を襲ったことのあるレイキャストだ。このレイキャストは、黒いブーマを見たことを誰にも信じてもらえず、しかも、ブーマから逃げ帰ったことを仲間のハンターに馬鹿にされ、彼(黒ブーマ)を憎むようになっていた。だから、このブーマをずっと探していた。このレイキャストは、漆黒のブーマを殺すため、原生生物に甚大なダメージを与えるために不正な加工をほどこしたスプレッドニードルを持っていた。そして、見つけた。レイキャストは、久々に見る漆黒のブーマの禍々しい姿に気勢を少しそがれた。が、ブーマの持つホーリーレイが目に入り、レイキャストの気持ちは、一気に高まった。もはや、ブーマを殺し、レアを奪うことのみが、心を支配していた。
 レイキャストは何か叫びながら、陰から飛び出し、水を飲むブーマの体にスプレッドニードルを打ち込んだ。突然のことに理解できない彼の体に何発も何発も打ち込んだ。
 彼は、大きな傷を負ったが、死には至らなかった。なぜなら、レイキャストの力が足りなかったからであるし、彼の体が強靭であったからである。そして、なにより、彼はこの森で唯一の暗黒属性をもつ特殊変異種であったからだ。不正な属性の武器をもちいても、死に至らない彼に、レイキャストは口汚い言葉を投げかけつつ、狂ったように、針を打ち込んだ。
 彼は怒りを覚えた。言葉の意味はわからないが、なにか叫びながら、狂ったように攻撃してくるこの機械がたまらなく醜く感じた。彼は、一撃、狂った機械の脳天に右手を打ち下ろした。嫌な音がして、機械の頭部がひしゃげた。機械は倒れ、メディカルセンターに転送された。
 彼は、もう虫の息だった。それでも森の入り口に向かい彼女を待った。日差しがまぶしかった。彼は、何度も目を閉じそうになるのを耐えた。しかし、ついに彼は目を閉じた。彼は、一声、悲しげな声を上げた。その声は森全体に響いた。彼の耳に彼女の声が聞こえたように感じた。その声は美しかった。彼は、息をひきとった。
 彼女は、まもなくやって来た。冷たくなった彼を見つけ、自分がはじめて会ったブーマだとすぐに気づいた。彼女は、原生生物の死には慣れたつもりだった。しかし、何故か、涙がとまらなかった。

 漆黒のブーマの墓は、彼女やその仲間によって、花の咲く美しい丘にひっそりと建てられた。

 時が立ち、彼の墓のまわりにも美しい花がさいた。立派なハンターズに成長した彼女は、今でも、ときどき彼の墓を訪れる。彼の残したホーリーレイが彼女に良く似合っていた。
 





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