おはなし

PSO等の物語です。

The Farmer 〜総督の密かな欲望〜

 タイレル総督は、大規模移民船団「パイオニア2」の最高責任者である。総督は、恐ろしく多忙で、昼も夜も無く職務に追われている。総督がひま人だというウワサがハンターズの間で囁かれているが、そんなことは決してない。そんな職務に忙殺される総督にも、密かな楽しみがあった。


 私が、パイオニア2総督に着任して、大分月日が流れた。仕事は相変わらず忙しい。娘のリコの行方もいまだわからない。ラグオルの異変の真相についても、現在調査が行われている。全く気の休まる暇がない。だが、そんな私にも密かな楽しみがある。母星にいたころからしていた趣味だが、現在は、ラグオル地表の森でひっそり行っている。それは、家庭菜園だ。
 ハンターズ達は勿論、秘書のアイリーンにも秘密だ。仕事の合間を見て、野菜達の世話をしている。母星から持ち込んだ種は、ナス、キュウリ、白菜、大根、トマトなどだ。ラグオルの土は、なかなか質が良く、野菜もよく育つ。菜園は、ラッピーやブーマが荒らさないように、ゲートで仕切ってある。なにせ、野菜は、私の可愛い子供のようなものだ。無論、リコが一番大事だが。
 最近、菜園の近くにいるラッピーの餌付けをはじめた。触覚の長い奴をラピ太、色の濃いのをラピ夫、体の大きいのをラピアンと名付けた。なつけば可愛いものだ。野菜を育ててこんな楽しみも見出せるとは。全く菜園をやっていて良かったとつくづく思う。

 ある日、仕事の合間に菜園の様子を見にラグオルに降りた。ラピ太達がよってきたので、モノメイトをあげた。菜園に着いて、私は、真っ赤に熟れたトマトを一つもぎ、口に運んだ。甘い香りが鼻腔をくすぐる。うまい。さすが、私の野菜だ。キュウリは浅漬けにしようか、などと考えながらキュウリの植えてある方を見た。
「!!!」
 キュウリが盗まれている!他の野菜を見ると、みんな大分盗まれており、無事なのはトマトのみであった。ゲートを開けられるのは人間だけだ。一体、誰が・・・
 私は、怒りに悶々としつつ、引き返した。

 翌日、私は、有給休暇をとることにした。勿論、盗人を捕らえるためだ。アイリーンは、この時期に休暇をとることに対し、怪訝な顔をしたが、私は野菜のことで頭が一杯で、それどころではなかった。
 必ず私の野菜を盗んだ輩を見つけ出し、捕らえるのだ。我が愛剣「エリュシオン」のサビにしてくれる!
 私は、菜園に向かうと、草むら隠れ、盗人の現れるのを待った。
 盗人はなかなか現れず、辺りもすっかり暗くなり、さすがに待ちくたびれてきた。
 その時、 ガサッ  黒い影が草むらを横切り、菜園に向かっていった。
 ブチッ ボリボリ  キュウリになにか付けて食べている。
 味噌か!味噌を私のキュウリに付けて食べているのか!?私は怒りに震えた。
「キッサマア!!!」
 私は、草むらを飛び出し、盗人をライトで照らした。モヒカン頭のヒューマーだった。
「そ、総督!?」
 盗人は、かなり面食らったようだった。まさか、ハンターズが犯人とは・・・
「貴様、ハンターズライセンス剥奪だ!!!」
「そ、そりゃないっすよ〜」
 モヒヒューマーは情けない表情をした、私はますます腹が立った。
「だまれ!!!私の大事な野菜を盗みおって!!!」
 私は、一気に間合いをつめ、フリッカージャブから、チョッピングライトを盗人のテンプルめがけ打ち下ろした。意識を刈り取るほどに強烈な一撃だった。
「ぐえ」
 盗人は情けない声をだして、手に持っていた小さな壷のようなものを落とした。拾ってみる。
「これは、味噌か?」
「・・・はい、自家製の味噌です。ボク、漬物漬けるのが趣味なんすよ。」
 なめてみる。・・・これは、うまい。
「糠味噌も作ってるんすよ。いい野菜が最近、なかなか手に入らないので探してたら、ここを見つけて・・・」
 モヒヒューマーは容器を差し出した。
「これ、ここのキュウリで漬けた浅漬けです。このキュウリ本当においしくて、つい・・・。すいませんでした!」
 私は、浅漬けを一つ、つまんでみた。
「むう。」
 うまい。
 ・・・この者は、私の野菜を盗んだとはいえ、野菜を愛する者に違いない。
「・・・よかろう。この菜園の野菜の使用を許可しよう。それと、漬物の販売権も与えよう。」
「ええっ。本当ですか!?ありがとうございます!」


 その後、総督の野菜をモヒカンヒューマーが漬けたこの漬物は、「総督のタッちゃん漬け」(注:本名 タイレル)として販売され、その味のよさから、評判になった。が、総督=ひま人説がますます囁かれるようになったのは、いうまでもない。
 





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