おはなし

PSO等の物語です。

EXPLOSIVE

 ハンターギルドはハンターズに副業を認めている。故にハンターズに副業を持つ者は多い。理由は様々だが、大半はハンターズの収入のみでは生活が出来ないというものだ。
 ハンターズの大半は民間や軍、政府の依頼を受け、その報酬で生活している。だが、近頃ではランクの高いハンターズでなければこなせない依頼が多くなった。そして、その依頼は一部の強力なハンターチームが独占しているのが現状だ。
 
 綾(りょう)と真琴(まこと)もハンターズ以外に職を持つ者だ。綾は大剣使いとして多少名の知れたハニュエールだ。小柄な外見だが、赤のソードを使いこなす。プラチナブロンドの美しい髪は腰まであり、黒い衣装との対象が映える。相棒の真琴は、レイマールだ。クールな性格だが、なぜか直情型の綾とは気が合う。レンジャーとしての腕は良く、用途によりあらゆる銃を使いこなす。細身で長身の真琴は少しくせのある栗色の髪を後頭部で束ねている。
 この二人がハンターズ以外の職を持つ理由は収入のみではない。あえていうならば正義感だろうか。依頼がなくては断罪できないハンターズ稼業では彼女達は納得できないのだ。
 彼女たちのもう一つの仕事とは賞金稼ぎだ。さすがにこの仕事は堅気とは呼べない。ハンターズでもこの職に就く者は少ない。前時代的と揶揄する者もいる。
 彼女達が賞金稼ぎを続ける理由は、大事な人の命を犯罪者に奪われたからに他ならない。第一級犯罪組織にして、超高額賞金首「ブラックペーパー」だ。
 とはいえ彼女らがこの巨悪を断罪するのに力不足を感じているのも事実だ。ブラックペーパーはなかなかしっぽを見せない。「黒い猟犬」と呼ばれる特A級賞金首も組織に関与しているとのウワサもある。今の彼女達の実力ではブラックペーパーにたどりつけないのは明白だ。だから一つ一つ仕事をこなして行き、強くならなければならない。

  
 勢いよくドアが開き、冷房のきいた部屋にムッとする熱気が流れこんでくる。綾は部屋に入るなり、ドアも閉めずに早口にまくし立てた。
「久々に大きな仕事になりそうだよ!」
 どうやらかなり興奮しているらしい。真琴がとくに表情も変えず不機嫌そうに答える。
「それよりドア閉めてくれない。せっかく涼しい部屋でまったりしてたのに。」
「あ、ごめんごめん。」
 綾はあわててドアを閉める。
「で、大きな仕事って?」
「そうそう、窃盗団の輸送ルートの情報を押さえたよ!」
「そんなのは軍かハンターズの仕事でしょ?」
 興奮する綾に、真琴がつまらなそうに答える。
「軍やハンターズが動くのなんていつになるかわからないよ!それに・・・。」
「それに?」
「正規な筋の情報じゃないいんだけど、黒い猟犬が関与しているらしいんだ・・・。」
「!」
蝉の鳴く声がきこえる。真琴が少しの間を置き、口を開く。
「・・・わかった。で決行はいつ?」
「3日後。」
「OK。で作戦は?」
 綾は、赤茶けた地図を広げる。
「輸送車を狙うわ。この地点を通過する輸送車を真琴の銃で止められない?」
 輸送車の装甲は分厚く、非常に頑丈である。並の銃ではかすり傷程度だろう。
「・・・運転手を撃ち殺すしかないわ。」
 二人の表情がにわかに曇る。
「燃料タンクを狙えない?」
「無理ね。仮に弾が貫通しても、すぐ穴が塞がるし、引火もしない。」
 重苦しいムードが辺りを包む。
 黙ってしまった綾に対し真琴がゆっくり口を開く。
「実弾を発射できる銃がいるわ。フォトンの弾じゃ無理ね。」
「真琴の2000は?」
「少し心もとないわ。7000は調達できる?」
 真琴の愛銃「ヤスミノコフ2000H」は現在では非常に貴重な、フォトンではなく実弾を用いたハンドガンだ。ヤスミノコフシリーズは旧世代の名工の作成した銃で、現在、数は非常に少ない。フォトンを使用していないにも関わらず性能は非常に高い。「ヤスミノコフ7000V」、それはこのヤスミノコフシリーズ最高クラスの威力を持つライフルだ。稀少さでは大幅にヤスミノコフ2000Hを上回る。
 考える綾を尻目に真琴が続ける。
「穴を開けるには最低でもエクスプロージョンブリットが要るわ。」
「エクスプロージョンブリット?」
「そう。一番いいのは弾頭に空洞があって、その中に水銀の粒が入っているものね。」
 エクスプロージョンブリットは着弾時、慣性で水銀が弾頭を破裂させる弾丸だ。フォトンの銃が主流となった今、入手するのはほぼ不可能に近い。
「・・・わかった。なんとかするよ。」
 綾はそう言って、背を向け、部屋を後にした。真琴は黙って虚空を見つめた。


 3日後の深夜。集合場所に現れたのは真琴だけだった。
(やっぱり手に入らなかったか・・・。)
 ため息を吐きつつ、少し無理な注文だったと真琴は思う。仲間を信頼してないわけではない。だが今の時代、特殊な実弾を入手するのはかなり困難なのだ。
 真琴が引き返そうと踵をかえした。その時、急ぐような足音が聞こえた。こちらに向かってきている。真琴は銃の引き金に指をかけ、足音のほうを見据えた。
 闇が途切れ、足音の主が姿を現した。
 綾が息を切らし、立っていた。
「ごめん。7000は手に入らなかった。でも・・・。」
 申し訳なさそうに言う綾の手には2発の弾丸が握られていた。エクスプロージョンブリットだ。
 急に緊張がとかれ、真琴はコンマ数秒、呆気にとられた。だが、すぐ気を取り直しポーカーフェイスを保ちながら、ぶっきらぼうに口を開く。
「しょうがないなあ。2000じゃ射程が足りないからサポートしてよね。」
 真琴はそう言いつつ、照れ隠しなのか綾の頭に手を置き、プラチナブロンドの髪を乱暴になでた。
「OK!」
 髪をくしゃくしゃにされながらも綾は元気に答えた。

 輸送車が通過する地点の物陰に2人は待機した。ライフルならば遠距離から狙えるが、ハンドガンの射程と威力では至近距離で狙うしかないのだ。
 二人の空気が張り詰める。どれくらい経っただろう。自分が闇に同化してしまったのではないかと思えてきた。
 ・・・その時。
 轟音が鳴り響きライトが辺りを照らした。
「来た!」
 どちらともなく叫んだ。巨大な鉄の塊のような輸送車が2台の護衛車両を就き従えて、目の前の道路に向かって闇を切り裂き、疾走してきた。
 空気を切り裂くような音を響かせ爆発が起こる。綾と真琴は同時に炎の最上級テクニック、ラフォイエを放ち、車両の足を止めたのだ。綾が飛び出し、赤のソードを握り締め突っ込む。
輸送車のみ、爆風を突きぬけ、なおも疾走する。まだ止まっていない。
「こっちはまかせて!真琴、そっちお願い!」
 綾が言うが早いか、真琴は飛び出し、輸送車の燃料タンクに弾丸を撃ち込んだ。銃声のあと、弾丸がめりこんで行く。タンクを貫通したはずだ。
 だが、爆発は起こらず輸送車は止まらない。
「・・・まさか、失敗!?」
 真琴の顔からにわかに血の気がひいた。
 刹那、タンクから小さな爆音が聞こえた。そこから一気に炎上し、そして輸送車はスピンして止まった。
 真琴は安堵から力が抜けそうになる。
「やったね!」
 綾が駆け寄って来た。護衛車両の方は片付いたようだ。真琴は再び気を引き締める。
「まだよ。敵さんの身柄を確保しないと。」
 2人は炎上する輸送車に近づいた。その時。
「!」
 炎の中でゆらりと何かが動めいた。
 人の形をした黒い影が。
「真琴、確保するよ!援護して!」
 綾が赤のソードを構えた。黒い影の輪郭がじょじょにはっきりしてくる。炎の中で黒い大刀が今はっきり見えた。
 影が刀を振り上げた。刹那、切り込んでくる。
 綾の赤のソードがすんでのところで刀を受け止める。フォトンが音を立て火花を散らす。
「・・・ッ!」
 綾の細腕では、受け止めるのが精一杯だ。
(・・・なんてパワー。)
 それもそのはず、炎から現れたのは紫のボディを持つ屈強なヒューキャストだった。黒い大刀にはなにやら文字が刻まれ、禍々しい気を発している。
「く・・・ッ。」
「黒い猟犬・・・キリークなの・・・!?」
 悪魔のような面構えだと真琴は思った。
 綾も真琴も魅入られたように動くことが出来ない。
 ヒューキャストは声一つ発せず、黒々とした大刀を綾めがけ打ち下ろした。
 綾が一気に冷や水を浴びせられたような寒気とともに正気に戻る。
「殺られる・・・!」
 その時、銃声が響き、ヒューキャストの右腕が吹き飛んだ。真琴の銃口から硝煙が立ち昇っている。
 最後のエクスプロージョンブリットが炸裂したのだ。大刀は綾の体をわずかに逸れ、地面に突き刺さっている。綾も真琴も声一つ出せない。それほどのプレッシャーがこのヒューキャストから感じられる。
 真琴が恐怖を押し殺し、叫ぶ。
「綾!今よ!」
 綾が赤のソードを振り上げようとした。が、それよりも速く、ヒューキャストが大刀を凪いだ。
(速い!)
 綾は間一髪それを凌ぐ。手が凄まじい衝撃で痺れる
「こんな大きな刀を片手で扱える・・・!?なんて奴なの!?」
 綾は一撃を凌いだものの、自分と、このヒューキャストの実力差に恐怖した。
(勝てない・・・!?)
 二人ともそう思った。エクスプロージョンブリットも使い果たしている。
 ヒューキャストは片手で黒い大刀を振り上げた。二人は目を閉じた。
 と、その時、閃光が走り、なにかがヒューキャストの頭部を貫いた。
 二人はゆっくり目を開けた。そして、見た。

 黒い閃光のようなそれは、まるで死神の鎌のような刃だった。
 ヒューキャストが音を立てて、崩れ落ちる。背後に立っていたのは、鎌のような武器を持つやはり紫のボディのヒューキャストだった。横たわるヒューキャストとは瓜二つだ。
 鎌を下ろし、炎を背後に背負い、まるで嘲り笑っているかのような形相で、横たわるそれに一瞥し、ヒューキャストは言葉を発した。
「オレの偽者がいると聞いて来てみれば、なにやらお取り込み中だったようだな。」
 何が起こったかわからず、呆気にとられる二人を尻目に紫のヒューキャスト背を向ける。
「お前らはなかなか面白い。だがオレの偽者に手を焼くようではまだまだだな。強くなれ。オレを楽しませるくらいにな。」
 不気味な嘲笑とともに言い放ち、その姿は闇に溶けていった。
 二人が今の出来事を理解する頃にはもう姿は無かった。


 後日、窃盗団の輸送を阻止し、その中のヒューキャストを含め賞金首を検挙したとして、綾と真琴は賞金を受け取った。
 二人は、同時に少しの名声も手にした。
 だが、2人の表情は冴えない。
 真琴が口を開く。
「黒い猟犬に命を救われるなんて・・・!」
 血がにじむほど、唇を噛み締めている。
 綾はただ手を組み黙っている。
 真琴がテーブルを叩く。
「何黙ってるのよ!らしくない。」
 綾がようやく口を開く。
「キリーク・・・強いわ。今の私達じゃ勝てない。」
 当たり前の答えに、二人の間に気まずさが流れる。 
 その時、情報屋のフォニュエール、鮎(あゆ)がドアを開けあわただしく駆け込んできた。
「大変、大変なの!」
 なにやらやたら興奮していて何を言っているのかわからない。とにかく手をやたら動かし、顔を上気させ、早口でまくしたてる。
「ふふっ。」
 綾が思わず吹き出した。それにつられ、真琴も吹き出す。
 顔をあわせ笑っている二人を見て、鮎は頬を膨らませ、ご立腹の様子だ。
「何笑ってるの〜!?大変なんだからっ!」
 真琴が口を開く。
「そうだね。」
 それに続いて綾も微笑んだ。
「さ、何が大変だって?」
 鮎は二人の意外に淡白な反応にきょとんとする。
 二人はまた顔を見合わせ、笑う。
 もう覚悟はできた。
「前に進もうか!」
 ブラインド越しの西日がまぶしい。
 遠くで蝉の声が聞こえる。しかし、今日は冷房は必要ない。
 秋が近い。

 鮎は、けたたましくまくしたて、夜には帰って行った。どうやら次の仕事らしい。
 二人は、ドアを開け、足音を響かせながら夜の闇に溶けていった。
 





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