| 「SERART」は、アルメニア語で愛を表すSerに、Artを組み合わせた造語で、「Love Of Art」を意味するという。邦盤には「芸術の愛」という副題がついている。 システム・オブ・ア・ダウン(以下SOAD)のサージ・タンキアン(Vo/Key)のサイドプロジェクトのデビューアルバムであるこの作品は、アルメニアン・ネイビー・バンドのアルト・トゥンクボヤシヤンと組んで製作された。 SOADは、LA在住のアルメニア系ミュージシャンによって結成された社会/政治意識の極めて強いバンドだ。迫害の歴史を持つアルメニア人だが、SOADのメンバーも虐殺を逃れた移住者の子孫として、LAのアルメニアンコミュニティで育った。 それもあってか、ネイティブ・アメリカンを祖に持つザック・デ・ラ・ロッチャを擁したレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンにも共通した高い思想性を持つ。 その歌詞の社会性はもちろん、トリッキーで激しく、かつ泣きのある曲展開は他のバンドにはない個性だ。(アルバムは現在3枚出ているがどれも必聴の出来。特に『毒性』は凄いの一言。) セラートの音楽だが、正直、どう表現していいか難しい。ライナーノーツから引用すると「メタル、ハードコア、レゲエ、ヒップホップ、ジャズ、民族音楽などが混濁したなんとも形容しづらいサウンド」だという。まあ、平たく言ってみるとそうなるだろう。ただ、それらを単に組み合わせた作品では決してないといえる。情感あふれるフレーズ、時には静かに、時には激しく流れる曲展開、祈りを捧げるかのような切ない歌唱、そして同時に強さも感じられる。歌詞は何を言っているのか分からないにも関わらず、何か懐かしい響きを感じてしまう。これは民族音楽との相乗効果もあるだろう。 この作品には直接的表現は一切存在しないにせよ、平和への願い、祈りが込められていると思う。強い問題提起もなく、決して激しい主張はないが、そこに込められた願いは強く美しい。言葉では無く音楽でそれを感じさせてくれる。 この作品に関して言わせてもらえば、ジャンルは不要である。そこには魂の音楽がただ存在しているのだ。素晴らしいの一言。
|
|
|
|
THE LIVING DEAD/BUMP OF CHICKEN |
| BUMP OF CHICKEN(バンプ・オブ・チキン)は、シングル『天体観測』のヒットで一般的に広く認知され、評価されることになった。(自分もそれがきっかけで知った。) 今回紹介する作品は、そのヒット以前にインディーズで発表されたアルバム。 一聴して、このバンドが以前から非凡であったことが分かる。 このバンドの曲の魅力は、疾走感があって分かりやすく、エモーショナルなメロディ、どこかコミカルながら、泣かせる歌詞にあると思う。 このアルバムもそういった魅力が満載だ。 全編にわたる優しい雰囲気が心地よい。 このアルバムで好きな曲は、”グングニル”と”K”だ。 どちらも曲がかっこよく、歌詞もある意味陳腐とも取られかねないほどの優しさに満ちている。歌唱も感情がこもっていて、心をゆさぶられる。 アルバムは全編通して、物語形式で進んで行き、QUEENの『オペラ座の夜』を彷彿させる。(もちろん曲風は全く違うが)曲風もバリエーションに富んでおり、飽きずにサクサク聴くことが出来る。そして、最後の曲を聴き終えた時、なんとも言えない優しい気持ちになるはずだ。(その後、数分の空白と、シークレットトラックが入っているが、蛇足かも^^;) 特に”K”は黒猫を主人公にした感動的な曲で、これを聴いたらどんな感情であれ、必ず掻き立てられると思う。名曲だ。自分は何度もこの曲で涙を流した。 このバンドがやや、マニアック(?)ながらも熱い支持を受ける理由がこのアルバムを聴けばわかるはずだ。是非一聴をおすすめする。 なお、このアルバムを含め、バンプ・オブ・チキンのインディーズ時代の作品は廃盤になるそうなので、欲しい方はお早めに。しかし、こんないい作品が廃盤とは・・・。 |
|
|
|
VOL.3:(THE SUBLIMINAL VERSES)/SLIPKNOT |
| 1999年に1stを発表して以来、ロックシーンに衝撃を与え続けてきたSLIPKNOTの最新3rd。 SLIPKNOTは、メンバー9人全員醜悪な仮面を被ったバンドで、その外見から色物扱いされることも多かった。 だが、その楽曲の質の高さ、演奏の確かさ、そして込められた感情の本気度は半端ではなく、へヴィな音楽を愛するリスナーにはその存在は常に衝撃的だった。 そしてまた、今作も凄まじいインパクトを持ったアルバムである。 まず、耳をひくのは今までとは比にならないほど、メロディに比重が置かれていることだろう。前作の憎悪といっても差し支えないほどの、重々しく、そして混沌を撒き散らすかのような轟音とは全く違う。(勿論前作も良いアルバムだが)かといって、単に温くなったとは決していえない。その楽曲に込められた感情は相変わらず、心に響く。その沈鬱で重く美しいメロディー、そして彼らの十八番ともいえるキャッチーな歌メロを持ち、かつすこぶるヘヴィなナンバー、そして轟音。SLIPKNOTの全てがここにある。 Vo.のコリーのソロプロジェクトのSTONE SOURで聴かれたメロディの美しさ、そして、今までのSLIPKNOTとはまた違うコリーの絶唱が今回の作品に大きく影響を与えているのは間違いない。さらに、前作以来彼らが培ったソロプロジェクトの経験も作品よい方向に向かわせているといえるだろう。 とにかく、今回の彼らは、過激で、悲しく、そして美しい。個人的には久々の大ヒットだ。 ちなみにアメリカでのこのアルバムの宣伝文句は「彼らについて知っていることは総て忘れろ」だそうだ。まさにその通り。秀逸すぎ。 |
|
|
|
MEZMERIZE/SYSTEM OF A DOWN |
| SYSTEM OF A DOWNは、98年にデビューのアルメニア系アメリカ人によるロックバンド。 そのサウンドはどこかコミカルでトリッキーな印象を抱かせるが、激しく、時には哀愁を湛え、聴くものを圧倒する。民族音楽を思わせる哀感、そして耳にこびりつくような歌メロは、激しい曲調にもかかわらず、一発でこのバンド魅力が伝わる威力だ。 歌詞は、ユニークな曲調に反し、とてもシリアスな内容で、RAGE AGAINST THE MACHINEに通じるような政治色がかなり強い。 彼らの実力はアメリカでは既に認められており、前作『TOXICITY』(邦題『毒性』)は全米チャート1位、550万枚を売り上げている。また、オズフェストでヘッドライナーを務めた経験もあり、ライヴバンドとしての実力も確かだ。 個人的にこの手の若手では、最高の実力を持っていると思うし、大好きなバンドである。激しく、哀しく、本気で、どこか憎めないその全てがこのバンドの魅力だろう。 本作『MEZMERIZE』は、3年半ぶりの新作。プロデューサーは、今回もレッチリ、RATMなどとの仕事で知られるリック・ルービンだ。 まず、聴いてみて思うのが、前作以上のキャッチーさ、コミカルさも激しさも笑ってしまうくらい過剰になっている。相変わらず、歌メロ、リフ、リズム、展開、どれをとってもユニークで、耳に残る。そして全てが今まで以上に弾けている印象だ。 とにかく、このバンドの音は柔軟性がすさまじく、縦横無尽に音が暴れまわってるようなもので、特に今作はそれが顕著だ。耳に残る音だが、今作に関しては好き嫌い分かれるかもしれない。好きな人は徹底的に好きになるだろうし、このコミカルさと緊張感に不快感を感じる人もいるような気がする。 それほど終始張り詰めたバランスを持っている作品だ。 今作は、ダロン・マラキアン(G,Vo)の歌唱パートが多く、サージ・タンキアンの変態絶叫ヴォーカルがやや後退していることが、残念といえば残念。そして、密度は決して低く無いながらも時間が短いためか、物足りない印象。 この作品は秋リリースの『HYPNOTIZE』と2部作で、そちらが待ち遠しい。今作の出来がいいだけに、どうしても飢餓感を煽られる。楽しみだ。 「芸術は人々を目覚めさせるものだ。広告やメディア、そして政府などによる催眠(=Mezmerize/Hypnotize)からね」というサージの言葉がこの作品、バンドの方向性を端的に示しているかもしれない。 今作のジャケットははっきり言って気持ち悪いが、今だけ割引価格なので、興味のある人は手にとってみて欲しい。 ちなみに、今作もいいが、このバンドをはじめて聴くという人はまず前作『TOXICITY』をおすすめする。名盤だ。 |
|
|
|
HYPNOTIZE/SYSTEM OF A DOWN |
| 前回紹介した、"MEZMERIZE"と同年に発表された双子の作品。 "MEZMERIZE"同様、催眠や暗示を意味するタイトルで、政府やメディアなどからの情報の支配からに対する問題提起、反戦意識が強く出たアルバムでもある。 元々、政治的なメッセージを持つバンドだが、問題定期の質としては今作が最高。そのメッセージからは、社会や戦争に対する彼らの主張が真摯に、時にはコミカルに、一語一音から伝わってくる。 前作と比べ、オーソドックスなロックをしている印象(あくまで彼らの水準で。一般的にみれば十分トリッキーな音。)で、キャッチーさは一歩譲るかもしれないが、聞き込むほどこのアルバムのすごさが伝わってくるはず。 この作品単体として勿論優れた作品だが、前作と続けて聴くとこの2枚の凄さが分かるはず。どちらもロックが好きなら是非聴いて欲しい。 この2枚にはロックの凄さの全てがある。 これほどの作品を出しながら、バンドはアルバムリリース後に休止。 現在活動再開の予定は無い。 結局、彼らが来日したのはフジロックの一回のみとなった。 RATM同様、彼らのような闘うバンドは寿命が短いというが、本当に残念だ。 彼らのライブを一度是非観たかった。 また帰ってきて欲しい。 世界は彼らを必要としてるはずだ。 |
|
|